2011年07月31日 所長ブログより

放射線リスクフォーラム・短報

昨日のフォーラムの簡単なまとめ。

1. Dr. H.Collins (放射線影響研究所)
 ●放射線量の推定対象としてより重要なのは、量的には内部被曝よりも空気中の外部被曝。
 ●個人の外部被曝線量を推計するには、時間と場所のデータが重要。
 ●福島全県民に対して、疫学研究を企画中。
 フェーズ1: 空気中の汚染レベルが高いところにいた100人程度について、被曝線量の正確な推計
 フェーズ2: 全県民に対し、郵送による健康調査の実施。(maggy質問:「対照群はどうやって設定?」については、「あくまで研究でなく調査なので、地域で振り分けるか、線量レベルで層別化するかは未定」とのこと)ただし低線量被曝の影響を被爆者スタディと同程度正確に評価するには、全県民を対象にしてもまだサンプル数が不十分かも、とのこと。

2. 柴田義貞(長崎大学)
 ●安全とリスクの定義
 安全とは、「その危険性が許容可能な範囲であると判定されたもの(maggy訳)をさす。
  ”A thing is safe if its risk are judged to be acceptable”
 ●チェルノブイリ事故後20年間で、小児甲状腺がん以外の増加は確認されていない。小児甲状腺がんについては、1グレイ浴びると罹患確率が5.5-8.4倍となる。(ただし、罹患率は最大でも10万人あたり10人にとどまり、現在はほぼ事故前と同水準)。
 ●チェルノブイリ事故の一般住民に対する最大の健康影響は、スリーマイルと同様、「避難することによる精神的影響」である。実際、「キエフ市の住民」と、「チェルノブイリからキエフに避難してきた避難者」とを比較すると、後者の抑うつ傾向が有意に高い (1.6倍)。
 
3.柳川尭(久留米大学)
 ●低線量被曝の健康影響
  安全基準は集団を対象として設定される。集団の場合、感受性のとても高い(すぐに影響が出る)個体も低い(ちょっとやそっとなら大丈夫)個体もいることから、閾値は設定すべきでない(すなわち、「●●以下なら絶対安全」のようなしきい値は設けない)。
 ●線量と影響との関係
  よりリスクを「高め」に判断する観点からは、直線を当てはめるのが理想的。
 ●生涯罹患リスク
  リスクを大きめに見積もって計算すると、30歳で100msVの被曝で、被曝していない人と比べて、固形がんのリスクは1.05倍に上昇。
 ●ICRPの勧告
  不確実なリスクは「少し(針小棒大ではなく、あくまで真っ当な範囲で)」大きく見積もるべき。その観点から評価しても、ICRPの基準(平常時1mSV/年、緊急時20-100mSV/年)は妥当。

…maggyとしては、「避難することの精神的影響が最大」が最も印象深かった(この手で定量的な研究が存在するとは、正直思っていなかった)。

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