2011年09月08日 所長ブログより

真の科学者、武田邦彦先生

あーるさんから紹介されて、氏のブログを読んでみた。
まさに、疫学屋のはしくれ、タバコ研究者のはしくれとして、感動を覚えたので、こちらで紹介させて頂く次第。

「「年齢が高くなるとガンにかかりやすい」という傾向が見られます。」
その通り。さすが武田教授、瞬時にして加齢ががんの危険因子であることを看破した。加齢がリスクファクターであることは、疫学のイロハと思ってしまう私は、科学者として根本からねじ曲がっている。

で、
「 女性の場合、喫煙率が変化していないのに肺がんは男性と同じ比率で増加していることから、喫煙と肺がんには強い関係がないということになる。」
「肺がんの決定要因の第一は、長寿であり、長生きすると肺がんになる確率が上がる。」

 素晴らしい。タバコの肺がん発症リスクがパックイヤー(1日a箱×b年吸い続けて、a×bパックイヤー)が増えると増大するという、「種々の研究ですでに実証されていること」を、鮮やかにスルーした。
 女性の方がライトな喫煙者が多いのと、非喫煙者の肺がん発症が若干女性に多いことから、女性の方が相対リスクが低いのは必然…と「疫学者の常識」にとらわれている、私が未熟なのだ。 さらに、喫煙の発がんへの影響は数十年遅れて現れるから、現在の喫煙率と肺がんの発症率を比較しても無意味なことも、私は「常識」扱いしてしまっていた。己の不明を恥じる。

 私は愚か者なので、ついつい下記のような「男性でも女性でも、喫煙によって肺がんのリスクは上昇する。ただしその上昇割合は、男性と女性とで異なる」というデータに引きづられてしまう。武田先生の、「都合の悪いデータに眼を向けない、もしくは調べようとせずに、自らの説を貫き通す」その勇気に、ただ脱帽。

ganjoho.jp/data/public/statistics/backnumber/…att/date12.pdf
 武田先生の提唱する如く、「年齢とがん発症に関連があったら、他の因子は全部無視してOK。他の因子との関連を示すデータは、とりあえずほっかむり」となったら、どれほど医療は楽になるだろう。
 なまじっか私は疫学をかじっているがゆえ、
「さまざまな危険因子(飲酒や喫煙や肥満など)と疾患発症との関連を見る際には、大きく影響する因子(たとえば年齢)はあらかじめ調整してから解析をし、見たい因子の影響のみを取り出して評価する」ことは、どの教科書でも最初に載せるべき当然の操作と理解してしまっていた。
 碩学の武田先生が、教科書レベルの知識を持ってないことなど考えられない。きっと、独自の理論を構築されているに違いない。

さらに、「喫煙者で肺がんになる人の割合は600分の1であり」と。
 南の島の方にも、罹患率と有病率について新たな概念を提唱された大先生がいらしたが、名古屋の大先生も負けてはいない。「1年間の肺がんの死亡者数」を「過去から現在までを強引に平均して出した謎の喫煙者数」で割って、「肺がんになる人の割合は1/600」を算出している。
 この手のデータを出すためには、「ある非喫煙者が生涯に肺がんにかかる確率(もしくは、肺がんで死ぬ確率)」と「ある喫煙者が生涯に肺がんにかかる・肺がんで死ぬ確率」の比を求めなければ意味がない(このデータもがんセンターにあり)…と、私のような「頭でっかちの御用学者」は考えてしまうのだ。武田先生のような斬新な解析法には、到底思い至らなかった。

最初から最後まで、驚きの連続。謹んで、イグ・ノーベル賞あたりに推挙したいところ。

 老婆心ながら、武田大先生に「東北の野菜は危険と喝破されましたが、上記と同じ方法で是非リスクを計算して頂けないでしょうか?」と問うてみたい。

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