朝日新聞デジタル、妊婦の血液検査によるダウン症予測に関する記事。
http://digital.asahi.com/articles/TKY201209290430.html
記事中、
「公表されているデータによると、子どもがダウン症だった場合、ダウン症と判定できる精度(せいど)は99.1%だった。反対に、ダウン症でないのに、ダウン症と判定してしまった率は0.1%以下だった。かなり正確に判定できると言える。 」
「90年代以降、日本でも「母体血清(けっせい)マーカー」という方法が導入され、年間約2万人が受けている。胎児がつくるたんぱく質などの濃度と、妊婦の年齢を加味し、胎児がダウン症である確率を出す。ただ、確率しかわからないという限界があった。 」
なるくだりが。この二つを組み合わせれば、「新しい診断法(=血液検査)を使えば、99%以上の確率でダウン症の有無を判定出来る」と解釈してもおかしくない。けれど、この解釈はよくある、そして致命的な間違い。
何がマズイのか。それは、「検査が意味があるかどうかは、病気を持っている人がどの程度いるかに大きく依存する」ことを考慮していないから。
ダウン症の確率は、妊婦の年齢に依存する。20歳で1200分の1, 25歳で1000分の1, 30歳で700分の1, 35歳で300分の1となる。
人口動態統計によれば、第一子を出産したときの平均年齢は30.1歳なので、700分の1を例に取ろう。もちろん第二子以降は上昇していくが、簡単のためにいったん30歳で考える。
計算しやすくするために、100万人の新生児を考える。このうち、ダウン症の新生児は100万÷700=1428人、ダウン症でない新生児は100万ー1428=99万8572人。
血液検査の精度として見つかったデータは、以下の通り。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22005709
ダウン症を発症した212例のうち、209例 (98.6%)が陽性。
ダウン症を発症してない1471例のうち、1468例 (99.8%) が陰性。
すると、ダウン症の新生児1428人のうち、妊婦検査で陽性になるのは1428×0.986=1408人。これは、「正しく陽性」の人。
一方ダウン症でない新生児99万8572人のうち、妊婦検査で「間違って」陽性になるのは998,572×(1-0.998)=2037人。「0.1%以下(データでは0.2%)」と言っても、元の人数が大量であれば、それなりの数が「間違って陽性」になってしまうのだ。
結局、検査で陽性と診断された人(の胎児)が、本当にダウン症である確率は、
「正しく陽性」÷(「正しく陽性」+「間違い陽性」)=1408÷ (1408+2037)=40.8%。5人に3人は間違い陽性なのだ。
計算してみると、「検査陽性のときに、本当にダウン症を持ってる確率」が90%を超えるのは、検査対象の集団内でのダウン症発症率が「52人に1人 (2%弱)」を超えるとき。だから、他の検査でダウン症が強く疑われる状態の母体に実施しないと、大量に偽陽性が出てしまうことになる(病院のページはそのようなニュアンスになっている)。
検査に意味があるかどうかは、記事にあるデータだけでは分からない。なおかつ、どんな検査をしても、「検査陽性」と「本当に病気あり」の間の橋かけは、結局確率になる。記事の結びは「全妊婦に診断の機会を提供する国も多い」とあるが、全妊婦にこの診断を導入することは、少しく無謀と感じる。