2011年03月17日 所長ブログより

放射線とたばこ

R氏から、「副流煙と放射線ってどっちが危ないの?」なる質問を受けた。

もちろん、3号炉の隣にいるのと、九州あたりにいるのでは、放射線の危険性はまったく異なる。R氏も私も東京在住だから、一昨日と同様、「東京にいるとどうなるか?」で話を進めよう。

まず、受動喫煙。受動喫煙については、がんセンターの研究がある。「1日1箱以上たばこを吸う夫がいる」場合と、吸わない夫がいる場合を比較すると、たばこを吸う夫がいる方が
肺の腺がんにかかる可能性が2.2倍に増える。
 女性が生涯のうちに肺の腺がんにかかる可能性は、35人に1人。「35人に1人」が「16人に1人」になると考えてよい。

他にも、「閉経前の女性の場合、乳がんのリスク上昇」など、さまざまな危険性はあるけれど、いったん無視しよう。

つづいて、放射能。一昨日の被爆者のデータに加えて、世界15カ国で原発労働者のデータを集めた研究 (British Medical Journal, 2005. 医学雑誌では世界最高水準のもの)が見つかった。

放射線を累積で1000ミリシーベルト浴びると、そうでない場合と比較して白血病にかかる可能性が2.93倍になる。一方、原爆被爆者のデータだと、倍率は4.15倍。
私はタバコの研究をずっとしているから、あえてタバコではなく、放射線の危険性を高く見積もろう。
高めの4.15倍をとると、女性の場合で「171人に1人」が「41人に1人」に上昇すると考えて良い。

もちろん、受動喫煙の肺の腺がんと、放射線の白血病を、同列に論じるのは若干無理がある。この点で推計の限界があることは、ここで明示しておく。

さて、この1000ミリシーベルト。どの程度浴びれば、1000ミリシーベルトに達するのだろうか。
困った(?)データがある。
一昨日から私は、2-30分に1回程度、東京より単純計算で4倍放射線が強いはずの茨城県の放射線レベルを記録している。(距離が半分になると、強さは4倍になる)
今日のデータは比較的安定していて、おおむね0.6マイクロシーベルト/時程度からだんだん下がりつつある。「下がって」しまうと、到底1000ミリシーベルトを稼げなくなってしまうので、強引な仮定を置こう。
「長きにわたって、今日観測されたレベルの放射線が出続ける。すなわち、東京で0.6÷4=0.15マイクロシーベルト (過去4年間の最大値の2倍)の放射線が観測され続ける」。

さて、この状況下で1000ミリシーベルト(=100万マイクロシーベルト)を稼ぎ出すには、何年必要か?

1年あたりの放射線量は、0.15×24×365=1314マイクロシーベルト。100万/1314=761年。アメリカの極悪犯罪者の懲役刑を思い出す。

仕方ないので、3月15日に記録された東京での最高値、0.809マイクロシーベルトを使おう。そして1000ミリシーベルトでなく、500ミリシーベルトまで落とそう。そうすると、必要な年数は70.8年まで落ちてきた。

…まとめ直そう。

受動喫煙:「1日1箱夫が吸うと推定。すると、肺の腺がんのリスクが『35人に1人』から『16人に1人』」

東京の放射線:「3月15日の最高レベルの放射線が、そのまま70年続く異常事態を想定。この放射線を屋外で浴び続けると、白血病のリスクが『171人に1人』から『82人に1人』」

遠くの親戚より、近くの他人。遠くの放射線より、近くのタバコ。
東京の放射線を憂うなら、福島で必死に奮闘している職員の方々に敬意を表そう。

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