2011年04月05日 所長ブログより

2011年9月13日

(追加)医療経済からみた「ミネラルウォーター買い占め」

KP氏から、またまた面白いテーマを頂いた。

普段はエンジンがかからないのに、このような話だと熱中する。学生には申し訳ないが、後でなんとかしよう。

細かな話はここでは略す。

置いた仮定は先日と同様にした。
水道水チーム: 「規制値の2倍、1リットルあたり200ベクレルの水道水を、3年8ヶ月間1日1リットル飲む」
ミネラルウォーターチーム:「2リットル100円のミネラルウォーターを、同じ期間飲む」

医療経済評価では、評価したいもの(ここでは、ミネラルウォーター)に関して、
「手前味噌」にならないように控え目な推計をするのが原則。ただ今回は、控え目にやると
ミネラルウォーターチームのボロ負けになってしまうので、水道水は汚染され続け、なおかつミネラルウォーターは格安で手に入るものとした。

分析に用いたのは、他に甲状腺がんの医療費と、甲状腺がんによる死亡、さらにがんにかかることによる生活の質 (QOL)の低下。

細かい仮定はどこかで書こうと思うけれど、結論。すべて、女の子の乳児1人当たり。
(女の子の方が甲状腺がんにかかりやすい。だから、ここもミネラルウォーターに有利になっている)

ミネラルウォーター変更にかかるコストは、およそ63,900円。甲状腺がんの医療費削減効果は、高めに見積もって100円。トータルで63,800円のコスト増加。
一方、健康上のメリットはというと、0.00382QALY。
「QALY」は見慣れない単位だが、単なる「●年生きる」ではなくて、生活の質も考えて調整した「年数」だと考えていただきたい。寿命への影響と、生きている間の生活の質への影響、両方を加味した年数である。

63,800円かけて、0.00382QALYを獲得できる。
1QALYあたりに直すと、63,800÷0.00382=1,670万円。この金額は大きければ大きいほど、「費用対効果が悪い、かけるお金に見合った健康上のメリットがない」ということになる。「よい」と「悪い」の境目は、500万円から600万円。1670万円より、はるかに下。

かなりミネラルウォーターに甘くしてみたけれど、やはり及ばず。ちなみにタバコはと言えば、「寿命は延びるし、医療費は安くなる。」
水より、トイレットペーパーより、ニコレット。

2011年03月30日 所長ブログより

2011年9月13日

One of the most…

「東電が東大に金をばら撒いている!」大学教授の発言が話題に
http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=1552727&media_id=59

「芸術学部教授」を「大学教授」と略したあたりに、なんとなく誘導の匂いを感じる。
(以下引用)
同記事で純丘教授は、「なんと5億円! 寄付講座だけでも、これほどの大金が、東京電力から東京大学大学院の工学研究科にジャブジャブと流し込まれている。これは、東大の全86寄付講座の中でも、単独企業としてあまりに突出した金額」と語り、「テレビで口を開くなら、まず、東京電力から受け取った黒いカネを、全額、返してからにしろ」とも。

原文とコメントを見ると、pdf内にある寄附講座の寄付金総額をすべて足し合わせて「突出した5億円」を主張されている。

1年後でなく累積、なおかつ横の連携がさほどなさそうな別講座への寄付を足し合わせるのはどうかと思うが、敢えてこのスタイルで評価してみよう。

BNBパリバ:4億8000万(法学政治学研究科)+9000万(数理科学研究科)=5億7000万
ツムラ:8億1000万(医学系研究科)
第一三共:8億2000万÷17+3億+3.5億+1億7500万÷7(医学系研究科)+2億1500万÷10=7億4000万
ILSIジャパン:5億300万(農学系研究科)
アステラス:2億5000万(薬学系)+2億1000万÷7+8億2000万÷17+1億5000万÷2+9000万÷2+9000万>5億円

…それぞれの講座名もまとめようと思ったが、多すぎるので断念。ただ、東電の5億が「単一企業としてあまりに突出した金額」と言える状態ではないことは確か。

研究をするうえで、利益相反の問題は常につきまとう。まっとうな医学雑誌の原則は、「利益相反を全面禁止にするのではなく、開示すべき」との立場。仮に企業のファンドの研究を全面禁止したら、この世から薬はひとつもなくなる。

「利益相反の存在」を100%是認するわけではないし、100%禁止するわけでもない。紐付きの研究を見て、どのように評価するかは、研究を吟味する人に委ねられる。開示すらなかったら、吟味もしようがない…という趣旨である。

利益相反や寄附講座に対してどのような立場をとるかは、人それぞれだから、言及する立場にない。

むしろ疑問に感じる点は、データソースを提示していながら、そこに示されたデータと合致しない結論を主張していること。数字屋としては、やはり合点のいかない部分。

2011年03月29日 所長ブログより

2011年9月13日

さすがに

安心できません。

(以下、
震災で傷んだお札どうする? 現金・株券などを再発行する方法
http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=1551251&media_id=101より)

■ 株券

株券の発行元である会社に連絡をして手続きをしてもらいましょう。株券の場合は住所や氏名が登録されているので、再発行の手続きをしてもらえるはずです。ただし、手続きにはかなりの時間を要する可能性があります。

参考:雨宮眞也法律事務所|株券再発行手続(http://www.amemiya-law.gr.jp/kabuken.htm)

「株券 再発行」でググると、このサイトが最初に出てくる。しっかり情報を吟味した上で書いていることが、一項目だけで存分に伝わってくる。

 私は金融に関して全く素人だから、
「この法律事務所のサイトが2007年以降更新されていない」とか、
「2009年以降株券がペーパーレス化されて、株主情報は特定口座に収納ずみ。紙の株券は無価値」とか、枝葉末節の情報に振り回されてしまう。

 日々変わる制度に対し、細かいことは気にしない姿勢は大いに評価できよう。
だが、できれば「株券 電子化」とか、少しキーワードを変えてググって欲しかった。

2011年03月28日 所長ブログより

2011年9月13日

「正しく」怖がる、放射線

◎いま、そこにある危機

「○○(会社名)も認めていたとおり、現状では●●の人体への影響はきわめて深刻な状況である。
東京大学の専門家および国立がん研究センターの統計データによれば、●●を30分?1時間に1回、数分ずつ浴び続けることで、数百種類もの発がん性物質を体内に取り込むことになる。ほとんど全てのがんに「かかりやすく」なる状態が生じ、その可能性は50%上昇。一部のがんについては540%の上昇が見込まれる。

心筋梗塞や呼吸器系疾患にかかる可能性も、100%程度上昇する。
また自身の被曝がなくても、●●を浴びた人の近くにいる場合、やはりがんにかかりやすくなるという。

 すべてを総合すると、30歳の男性で平均余命が2.3年短縮。生涯の医療費も、1人当たり200万円以上増える見込み。
 一部省庁や国連の関連機関もその危険性を重視しており、●●への曝露を防ぐべく、可能な限りの努力を継続中である。だが●●の中毒性もあって効果は不十分で、予断を許さない状況にある。 」

…いかがでしょうか?
一刻も早く東京を離れようと思いましたか?
あるいは、家の窓に目張りをしますか?
もしくは、気分を落ちつかせるために、「とりあえず一服…」と思ったりしましたか?

一服しようと思った方に、残念なお知らせがあります。●●は放射線ではありません。まさに今、あなたが火を付けようと思ったタバコです。○○は、東京電力と同じような巨大企業、JTなのです。

◎リスクファクターって?見えないものも、見えるものも…

 放射線は目に見えませんし、危険性があまり伝えられていなかった分、どうしても恐怖心を抱いてしまいます。
 でも、放射線もタバコも排気ガスも、「体に害を与えうる」という意味では、みんな同じものです。

 そしてタバコの場合でも、自分が吸っているのと、自分は吸わないけれども職場の同僚や家族が吸っているのと、たまたま道の向こうを歩いている人が吸っているのとでは、危険性は全く変わってきます。

 放射線も同じことです。福島原発のそばで懸命に作業をされている方と、そこから220km離れた東京にいる方では、危険性は違います。

 ここでは、「東京に住んでいる方にとって」放射能がどの程度危ない、どの程度怖い物かを、身近なタバコと比較して考えてみることにします。

 放射線やタバコなど体に害を与えうるものを、まとめて「リスクファクター(危険因子)」と呼びます。そして各危険因子の怖さや危なさを評価するときには、3つの「どれだけ?」を考える必要があります。

◎危なさ・怖さの評価法 「どれだけ」×3

 
 1. 危険因子がないときに、どれだけの可能性で病気にかかるか?
  タバコを吸わない人や、今回の事故による放射線を全く浴びてない人が、どの程度の可能性で病気にかかるかをさします。

 2. 危険因子に、どれだけの量曝露(ばくろ)されたか?
  「曝露」は、タバコを吸ったり、放射線を浴びたりすることをさします。危険に「曝される(さらされる)」と考えればわかりやすいと思います。
 タバコを1日5本・1年だけ吸ってやめた人と、1日3箱・40年吸い続けている人とでは、病気にかかる可能性はもちろん変化します。放射線も同様に、どのくらいの量浴びたかによって、危険性は変わります。

 3. 曝露されたことによって、病気にかかる可能性がどの程度上昇するか?
  ”2″で求めた量さらされたときに、ある病気にかかる可能性が何倍になるかの評価です。病気にかかる仕組み(放射線によってDNAが破壊されるとか、タバコに含まれるタールによって細胞ががん化するとか)を評価するのではなく、病気にかかる可能性がどの程度増えるのかを数字で評価するのです。

 3つまとめてみましたが、今までの報道では、1の部分が欠けていたかもしれません。次に少し脱線して、”1″を抜かして考えるとどうなるかを考えてみましょう。

◎「2倍になる」っていうけれど… なぜ、元々の危険性が大事?

 10円玉を投げて、数字の面が出る可能性は50%です。ここでイカサマをして、平等院の側(いわゆる表)が向かい合うように2枚の10円玉を貼り合わせれば、100%数字の面が出ます。50%が100%になるから、確率は「2倍に増える」わけです。

 一方、ジャンボ宝くじを1枚だけ持っているA君と、2枚「も」持っているB君を比べるとどうでしょう。1等2億円が当たる可能性は、B君のほうがA君よりもやはり「2倍に増える」ことになります。でも、2億円が当たる確率はごくわずか。1枚あたりたった1000万分の1ですから、2倍になっても1000万分の2=500万分の1です。1時間に1回抽選があったとしても、大当たりの可能性は570年に1回。何とも気長な話です。

 
 10円玉も宝くじも、「2倍に増える」ことは間違いありません。しかし、「50%が100%」と、「1000万分の1が500万分の1」では、全く意味が違います。だからこそ、1番で述べたような「元々の危険性」を考えることが重要なのです。

◎受動喫煙、どれだけ危険なの?

 これを踏まえて、受動喫煙と放射線の危なさを比べてみましょう。

 まず、受動喫煙です。受動喫煙については、国立がん研究センターのデータがあります。
 女性が生涯のうちに肺の腺がんにかかる可能性は、35人に1人です。これが、1番で述べた元々のリスクです。

 そして2番と3番です。「1日1箱以上たばこを吸う夫がいる」場合と、吸わない夫がいる場合を比較すると、たばこを吸う夫がいる方が、肺の腺がんにかかる可能性が2.2倍に増えます。

 「35人に1人」の可能性が2.2倍になりますから、「35人に1人」が「35÷2.2=16人に1人」になるわけです。

◎空間の放射線、どれだけ怖いの?

 続いて、東京の放射線です。本来は同じ部位のがんで比較すべきなのですが、放射線によって「かかりやすさ」が最も大きく変動する白血病を例にとります。

 女性が生涯のうちに白血病にかかる可能性は、171人に1人。これは、受動喫煙と同様、がんセンターのデータです。

 そして原爆被爆者の方のデータによりますと、放射線を浴び続けて、累積の量が1000ミリシーベルト(=100万マイクロシーベルト)に達すると、浴びていない人と比較して4.15倍白血病にかかりやすくなります。

 あとは、1000ミリシーベルト浴びるのにかかる時間を考えればよいわけですが、ちょっと困ったことがあります。
 東京の放射線レベルは、地震発生後徐々に低下しています。今日 (3月27日)の新宿区で観測された平均値は、1時間当たり0.114マイクロシーベルト。このレベルですと、1年間維持してもおよそ1ミリシーベルト。胸のCT検査1回分。1000ミリシーベルトに達するまでに、1000年かかってしまいます。

 無理な仮定をおきましょう。3月15日に観測された最大値、1時間あたり0.809マイクロシーベルトが、今後ずっと続くとします。そして、累積の量を半分、500ミリシーベルトにしましょう。

 すると、1年間に浴びる量が0.809×24×365=7086マイクロシーベルト。500ミリシーベルト=50万ミリシーベルトに、50万÷7086=70.6年で達します。

 
 まとめ直しますと、「3月15日に観測された最大レベルの放射線を、屋外で2081年まで浴び続けると、白血病にかかる可能性が『171人に1人』から『171÷(4.15×0.5)=82人に1人』になる」と分かります。先に、寿命が来てしまいそうです。

◎水道水の放射線、どれだけ危ないの?

 最近問題になっている、水道水の乳児に対する危険性はどうでしょう。異常値が検出されたのは、「ヨウ素131」という放射性物質です。131は、さまざまある「ヨウ素」のタイプのうちの1つと考えてください。自然界にはほとんど存在しませんので、原発からやってきたことはほぼ間違えありません。

 詳細は少し省略しますが、環境基準値 (1kgあたり100ベクレル) の2倍、1kgあたり200ベクレルのヨウ素131が入った水を飲み続けたときの、甲状腺がんの危険性を考えましょう。

 生まれてきた女の子が、20歳までに甲状腺がんにかかる可能性は、かなり高めに見積もっても2万?2万5000人に1人。
 200ベクレルのヨウ素131が入った水を毎日1リットル飲み続けて、なおかつすべての放射線が甲状腺に蓄積したとしますと、その量は1年で268.3ミリシーベルト。3年8ヶ月飲み続けて、1000ミリシーベルトの蓄積になります。

 チェルノブイリ事故の後の追跡調査研究のデータによれば、この量の放射線を浴びると、甲状腺がんになる可能性は3.15倍になります。

 「たった4年で3倍?」と慌てないでください。まず、この値は異常値がずっと続く、かなり強い仮定をおいています。さらに、最初にお話ししたとおり、倍率だけでなく元々の危険性を考えることが大事です。甲状腺がんにかかる可能性は多くとも20,000人に1人ですから、それが3倍になっても20,000÷3.15=6,300人に1人。受動喫煙の危険性とは、文字通り「桁が違い」ます。

 こちらもまとめ直しますと、「環境基準値の2倍のヨウ素131が入った水を毎日1リットルずつ、3年8ヶ月間飲み続けると、大人になるまでに甲状腺がんにかかる可能性が『20,000人に1人』から『20,000÷3.15=6,300人に1人』になる」となりました。
 

◎おわりに

 受動喫煙「夫が毎日タバコを1箱吸っていると、肺の腺がんにかかる可能性が『35人に1人』から『16人に1人』に上昇」

 空中の放射線「3月15日の都内最高レベルの放射線を70年間屋外で浴び続けると、白血病にかかる可能性が『171人に1人』から『82人に1人』に上昇」

 水道水の放射線「環境基準値の倍量汚染された水を1リットルずつ3年8ヶ月飲むと、大人になるまでに甲状腺がんにかかる可能性が『20,000人に1人』から『6,300人に1人』に上昇」

 …絶対安心だとは言えません。でも、必要以上に怖がる前に、もう一度深呼吸してみましょう。「遠くの親戚より、近くの他人」。遠くの放射線より、近くのタバコ。もし身近にタバコを吸う方がいらしたら、ドラッグストアに水やトイレットペーパーを買いに行くついでに、ニコチンパッチやニコチンガムを買ってみてはいかがでしょうか?

 改めて、原発の近くで危険な作業に従事している方に感謝しつつ、この稿を終えたいと思います。

——————————-
東京大学大学院薬学系研究科・医薬政策学特任助教
一般社団法人 医療経済評価総合研究所 代表

五十嵐 中(いがらしあたる)

2011年03月26日 所長ブログより

2011年9月13日

放射線と10円玉と宝くじ

「確率」「数字」に、拒否反応を示す人は多い。
「数字で語る」→「理屈をこねて煙に巻こうとする」と否定して、
「危険が少しでも増すのならば、避けるに越したことはない。それが危機管理」と主張する人もいる。

少々発展すると、「規定値の200倍」「1250倍の量の放射線」となる。一見、データに基づいた「科学的」な記事に見える。

さて、脱線してみよう。
 10円玉を投げて、数字の面が出る可能性は50%。平等院の側(いわゆる表)が向かい合うように2枚の10円玉を貼り合わせれば、必ず数字の面が出る。50%が100%になるから、確率は「2倍に増える」。
 一方、ジャンボ宝くじを1枚だけ持ってるA君と、2枚「も」持っているB君。1等2億円が当たる可能性は、B君のほうがA君よりも「2倍に増える」。とはいえ、当選確率は微々たるものだから、「1000万分の1」が「1000万分の2」になるだけ。

 10円玉もジャンボ宝くじも、「2倍に増える」はウソではない。だが、増え方は全く違う。以前も書いたけれど、ただ単に倍率を論ずるだけでは、根拠なく煽っているのと同レベル。

「もともとの危険性が、●●人に1人」
「そこへ、(タバコでも放射線でも排ガスでも)リスク因子を××の量浴びる」
「そうすると、●●人に1人が△△人に1人まで上昇する」

この3点が揃って初めて、「正しく怖がる」ことができる。2番目だけ取り出して独り相撲をとるのは、「数字で物を考える」とはいえない。

2011年03月17日 所長ブログより

2011年9月13日

放射線とたばこ

R氏から、「副流煙と放射線ってどっちが危ないの?」なる質問を受けた。

もちろん、3号炉の隣にいるのと、九州あたりにいるのでは、放射線の危険性はまったく異なる。R氏も私も東京在住だから、一昨日と同様、「東京にいるとどうなるか?」で話を進めよう。

まず、受動喫煙。受動喫煙については、がんセンターの研究がある。「1日1箱以上たばこを吸う夫がいる」場合と、吸わない夫がいる場合を比較すると、たばこを吸う夫がいる方が
肺の腺がんにかかる可能性が2.2倍に増える。
 女性が生涯のうちに肺の腺がんにかかる可能性は、35人に1人。「35人に1人」が「16人に1人」になると考えてよい。

他にも、「閉経前の女性の場合、乳がんのリスク上昇」など、さまざまな危険性はあるけれど、いったん無視しよう。

つづいて、放射能。一昨日の被爆者のデータに加えて、世界15カ国で原発労働者のデータを集めた研究 (British Medical Journal, 2005. 医学雑誌では世界最高水準のもの)が見つかった。

放射線を累積で1000ミリシーベルト浴びると、そうでない場合と比較して白血病にかかる可能性が2.93倍になる。一方、原爆被爆者のデータだと、倍率は4.15倍。
私はタバコの研究をずっとしているから、あえてタバコではなく、放射線の危険性を高く見積もろう。
高めの4.15倍をとると、女性の場合で「171人に1人」が「41人に1人」に上昇すると考えて良い。

もちろん、受動喫煙の肺の腺がんと、放射線の白血病を、同列に論じるのは若干無理がある。この点で推計の限界があることは、ここで明示しておく。

さて、この1000ミリシーベルト。どの程度浴びれば、1000ミリシーベルトに達するのだろうか。
困った(?)データがある。
一昨日から私は、2-30分に1回程度、東京より単純計算で4倍放射線が強いはずの茨城県の放射線レベルを記録している。(距離が半分になると、強さは4倍になる)
今日のデータは比較的安定していて、おおむね0.6マイクロシーベルト/時程度からだんだん下がりつつある。「下がって」しまうと、到底1000ミリシーベルトを稼げなくなってしまうので、強引な仮定を置こう。
「長きにわたって、今日観測されたレベルの放射線が出続ける。すなわち、東京で0.6÷4=0.15マイクロシーベルト (過去4年間の最大値の2倍)の放射線が観測され続ける」。

さて、この状況下で1000ミリシーベルト(=100万マイクロシーベルト)を稼ぎ出すには、何年必要か?

1年あたりの放射線量は、0.15×24×365=1314マイクロシーベルト。100万/1314=761年。アメリカの極悪犯罪者の懲役刑を思い出す。

仕方ないので、3月15日に記録された東京での最高値、0.809マイクロシーベルトを使おう。そして1000ミリシーベルトでなく、500ミリシーベルトまで落とそう。そうすると、必要な年数は70.8年まで落ちてきた。

…まとめ直そう。

受動喫煙:「1日1箱夫が吸うと推定。すると、肺の腺がんのリスクが『35人に1人』から『16人に1人』」

東京の放射線:「3月15日の最高レベルの放射線が、そのまま70年続く異常事態を想定。この放射線を屋外で浴び続けると、白血病のリスクが『171人に1人』から『82人に1人』」

遠くの親戚より、近くの他人。遠くの放射線より、近くのタバコ。
東京の放射線を憂うなら、福島で必死に奮闘している職員の方々に敬意を表そう。

2011年03月15日 所長ブログより

2011年9月13日

最悪の事態(加筆)

「煽っている」ようにしか見えないけれど、報道の正義や「ききかんり」としては「起こりうる最悪の事態を考慮して、しっかりと分かり易く情報を伝えている」のだろう。なので、私も最悪の事態を考慮してみた。都合により、固有名詞を一部伏せた。

 ○○(会社名)も認めていたとおり、現状では●●の人体への影響はきわめて深刻な状況である。
東京大学の専門家および国立がん研究センターの統計データによれば、●●を30分に1回、数分ずつ浴び続けることで、数百種類もの発がん性物質を体内に取り込むことになる。ほとんど全てのがんに「かかりやすく」なる状態が生じ、その可能性は50%上昇。一部のがんについては540%の上昇が見込まれる。また自身の被曝がなくても、●●を浴びた人の近くにいる場合、やはりがんにかかりやすくなるという。
 一部省庁や国連の関連機関もその危険性を重視しており、●●への曝露を防ぐべく、可能な限りの努力を継続中である。だが●●の中毒性もあって効果は不十分で、予断を許さない状況にある。

 …慌てないでいただきたい。お気づきの方もあると思うが、○○はJT, ●●はたばこである。なお、数値はすべて正しい。要するに「1日1箱たばこを吸い続けると、非喫煙者と比べてがんにかかる可能性は全がんで1.5倍・肺がんで6.4倍になる」ということである。

 100ミリシーベルトで「健康被害」「がんにかかりやすくなる」と報じられたが、「どの程度罹りやすくなる」の情報が抜けていたし、私も見落としていた。被爆者調査の資料を見てみると、1グレイ(今回のガンマ線であれば、1シーベルト=1000ミリシーベルト=100万マイクロシーベルト)の放射線を浴びたとき、白血病のリスクは5倍程度、それ以外のがんのリスクは1.5倍に増える。
 なお生涯を通して白血病にかかる確率は、男性では125人に1人、女性では170人に1人。炉の近くに数時間いて「初めて」、この確率が男性だと25人に1人、女性だと34人に1人に増大するのが、「放射線の危険性」になる。「1時間いたら必ず白血病になる」わけでは決してない。

 今日一日、断続的にチェックしていたけれど、東京と福島の中間にある茨城での放射線量は最大でも1時間あたり4マイクロシーベルト程度。屋外で10-15時間浴び続けて、ようやくレントゲン1回分になる量だ。東京での数値は、多めに見積もっても「危険水域」の1000分の1の値。
 
 危険を伝えるのは大事。だが、「現状のデータで、どんな人が危険で、どんな人が安全なのか」「危険とはどの程度の『危なさ』か」を一緒に伝えなければ、単なる煽りになってしまう。不確定要素が大きいけれど、少なくとも現状分かることは以上の通り。

2011年03月12日 所長ブログより

2011年9月13日

原発「事象」ーこんな時こそ

報じられているとおり、格納容器の損傷が少ないのならば、原発からの距離と放射線量の判断になろう。

隠蔽とか、陰謀とか、対応遅れ批判とか、主張しても何の+にもならない。

まずは、距離を測る。
第一原発(福島県双葉郡大熊町)から東京(文京区本郷)までの距離は、220キロ。
報道されている「1015マイクロシーベルト」は、原発正門での測定値という。

googlemapで見たときのどのあたりが「正門」なのか判然としないが、原子炉からの距離を多めに見積もって1kmとしよう。
原発から浴びる放射線の量は、原発からの距離の2乗に反比例する。 (10キロ離れれば1/(10×10)=1/100) 正門と比べて、東京は220倍遠いので、放射線量は1/(220×220)=1/48400. およそ5万分の1に減衰する。

だから、原発正門で1015マイクロシーベルト (1時間あたり)が
観測されているとき、
東京では1015/50000=0.2マイクロシーベルト。
レントゲン撮影1回分が100~300マイクロシーベルトなので、1ヶ月近くこのレベルが続くとレントゲン1回分に等しくなる。これなら、無視できる範囲。

もちろん、放射性物質自体が拡散しているならば、単純な距離の議論はしづらくなる。
ただ繰り返しになるが、「格納容器の損傷」が軽微なのと、風向きを考え合わせれば、放射性物質そのものが大量に東京方面にやってくる可能性は「現状では」低いと判断した。

一年間に「浴びても問題ない」放射線量の限度は、1ミリシーベルト/年。1時間あたりに直すと、1÷365÷24×1000=0.114マイクロシーベルト/1時間である。
原発自体からの放射線のために、東京でこの基準以上の放射線が観測される場合には、原発正門では0.114×50000=5700マイクロシーベルト、すなわち5.7ミリシーベルト/1時間の数値が観測される「はず」。(距離その他は誤差あり)「1015」の約5倍。

風向きはこちら。
http://weather.yahoo.co.jp/weather/amedas/7/36611.html
更新頻度不明だが、放射線量の情報はこちら。
http://www.atom-moc.pref.fukushima.jp/dynamic/C0002-PC.html

2011年03月06日 所長ブログより

2011年9月13日

9回裏無死一塁でバントはするな

なる本を目にした。もちろん買って読む。

「送りバント」「敬遠策」「2-0からの一球ボール」「左打者には左投手」…
などの「セオリー」「定石」を、データから改めて再評価。ランナー一塁からのバントは、ほとんどのケースで「ランナーを二塁に進める」利益よりも「アウト1つをくれてやる」損失の方が大きいことなど、なかなか楽しい分析。

ただ、医療統計屋として、少し悩ましい部分は残る。例えば、左vs左について。
5年分のデータを使って、「左打者vs左投手」の打率が2割6分2厘・「左打者vs右投手」の打率が2割7分1厘であることを算出する。で、この9厘の差が偶然に生ずる確率はきわめて小さいことをもとに、「左vs左」は一定の意味あり…と結論している。

私の目からすると、5年分のデータをとれば、どんなに小さな差でも「偶然起こる」確率は小さくなるはず。極端な話、打率の差が1厘しかなかったとしても、20年分くらいデータをとれば「偶然ではない」という結論を導き出せる。数学的or統計的には。

本来考えるべきは、「9厘の差が統計的に意味があるか?」ではなく、「統計的に裏付けられた9厘の差は『野球的』にも意味があるか?」のはず。0.009の差を、医療でよく登場するNNTに換算すると、
「『左vs右』だったら打たれていたところ、『左vs左』にしたから打たれないですんだ」
ケースは111回に1回…となる。これなら、個々の投手と打者の相性を重視した方がはるかに意味はないか。

などなど、いくつか疑問は残るものの、基本的には良い本。おすすめ。
http://www.amazon.co.jp/%EF%BC%99%E5%9B%9E%E8%A3%8F%E7%84%A1%E6%AD%BB%EF%BC%91%E5%A1%81%E3%81%A7%E3%83%90%E3%83%B3%E3%83%88%E3%81%AF%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%AA%EF%BC%88%E7%A5%A5%E4%BC%9D%E7%A4%BE%E6%96%B0%E6%9B%B8234%EF%BC%89-%E9%B3%A5%E8%B6%8A%E8%A6%8F%E5%A4%AE/dp/4396112343

2011年02月03日 所長ブログより

2011年9月13日

価値相対主義

■メトロと都営、乗り継ぎ利便化…統合は議論継続
(読売新聞 – 02月03日 12:49)
http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=1490980&media_id=20

この記事では省略されているけれど、別のソースによれば「利便化」の中に「本郷三丁目駅の連絡通路整備」も含まれているようだ。

かつて大江戸線が開通して間もない頃のポスターでは、本郷三丁目も蔵前も後楽園=春日も「便利な乗り換え」扱いだった。あれが便利なら、日本に不便な乗換駅は一つもなくなることだろう。

どこに連絡通路を作るのかはっきりしないものの、地下を掘ってつなげてくれるのだろうか。乗り換え専用でなければ、濡れずに歩けるメリットも生まれる。南北線のように、「卒業後に完成」にならないことを願う。