土壌放射線・お抱えはつらいよ~大地讃頌(長文)
今度の課題は、「土壌放射線と健康リスク」。
まずは「拡散希望」だそうなので、敢えて引用させて頂く。
(以下引用)
実はMixiのコミュニティ経由でこんなことを耳にしたのですが、、、
http://nippon-end.jugem.jp/?day=20110630
http://blog.pandacake.jp/?eid=945801
6月24日に、農水省が、放射能で汚染された泥であっても、200ベクレル以下であるならば、それを肥料に変えて流通させてもよいという決定をしたのだそうです。
恐ろしいことだと思います。
肥料にしたからって放射能が消えてなくなるわけではなく、土から農作物は放射能を吸収しますよね。。
これが本当に実現してしまえば、日本国産の農作物は何一つとして安全なものがなくなってしまう。
こんなことをして、誰を、何を助けようとしているのだろうかと疑問です。
どうか、この情報を一人でも多くの方に広めたい、そして、何とかしてこんな馬鹿げた決定が実際に行動に移される前に止めてもらいたいという思いで、皆様にメールしています。
私本人ではまだ真偽のほどは確認していないのですが、ブログの作者さんが農水省に電話で問い合わせていますんで、本当のようです。
この200ベクレルという数値が「国の基準」とありますが、これって震災後に引き上げた基準で、3月17日までは、基準は10ベクレルだったそうです。
それを知ってしまうと、200ベクレルが安全と言うその根拠は何なのかも疑問です。
(引用終わり)。
さて、計算を進めよう。
仮定は、「農水省基準ギリギリの、1kgあたり200ベクレルのセシウム137を含んだ汚泥肥料が、畑に撒かれる」である。このもとで、その畑から採取された野菜の健康リスクを計算すればよい。
考えるべきステップは、
1. 肥料を土に撒く(当然希釈される)
2. 土から野菜にセシウムが移行する
3. 野菜から体に経口でセシウムが移行する
である。
まず1。必要な情報は、「1平米あたりにまく肥料の量」「畑を耕す際の土を掘る深さ」「土の比重もしくは密度」である。かなり振れ幅が多くて往生したが、便利な資料を見つけた。三重県が作った、汚泥肥料の使用に関するガイドライン。
http://www.pref.mie.lg.jp/TOPICS/201106017220.pdf
最初のページの下側あたりに、「10アール (1,000平米) あたり1トン施用した場合」
「土壌重量は10アールあたり150トンとする」なる記載あり。
他のサイトを見ても、肥料の標準は1平米あたり1-2キロ (10アールあたり1-2トン) なので、「土の重さは10アールあたり150トン、肥料の重さは10アールあたり2トン」としよう。
同じ三重県資料の「蓄積度」式を見ると、重金属濃度については
「2トンの肥料を150トンの土に加えた場合、2/150に希釈 (うるさく考えると2/152?)」と考えて良さそうである。すると放射性セシウムも、200Bq/kgの数値が1/75に希釈されることになる。
続いて2。土の中のセシウム137が、どの程度野菜の中に移行するかのデータ。
こちらは、農水省が既存文献をまとめたデータを提示していた。
http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/nouan/pdf/110527-01.pdf
土壌の種類や、作物によって0.001未満から0.1程度までかなり差がある。相変わらず「セシウムの影響を高く見積もる」ために、高めの0.1を採用しよう。なお稲については、農水省が0.1の係数を提示していた。
“0.1”の意味合いは、作物中のセシウム濃度が、土壌のそれの10分の1になることである。
そして3。体に取り込まれたセシウムが、どの程度「悪さ」をするかの計算。
こちらはセシウム137の実効線量係数を使えばよい。経口の場合、1.3×10^-5mSv/Bq。
非常に分かりづらい式だが、逆数をとると1÷0.000013=76,900。この値は、「76,900ベクレルのセシウム137を摂取すると、1ミリシーベルトの被曝をしたことになる」と解釈できる。
まともに「健康への影響がある」と言えるのは100ミリシーベルトからだと思うが、ここを大甘にして、10ミリシーベルト分の被曝としよう。通常の自然放射線でも、4-5年浴びれば10ミリシーベルトに達する。
10ミリシーベルトの被曝に必要な摂取量は、769,000ベクレル。
さて、まとめ。
農作物から、汚泥肥料由来で769,000ベクレル (10ミリシーベルト)被曝するためには、どのくらいの量が必要だろうか?
基準値200ベクレル/kgの肥料が、まず1の「肥料→土」希釈で、200/75=2.67ベクレル/kgに濃縮される。そして2の「土→作物」移行で、さらに10分の1、0.267ベクレルとなる。結局農作物1kgあたり、0.267ベクレルの被曝増加。「意味のある」10ミリシーベルと被曝のためには、769,000÷0.267=288000キロ。すなわち、288トンの摂取が必要だ。
国民健康・栄養調査によれば(いつもは喫煙率のデータソースとして世話になっている。まさかそれ以外で役に立つとは)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000xtwq-img/2r9852000000xu2r.pdf
1日当たりの食物摂取量は、田畑から取れる「穀類(512) ・イモ類(56)・豆類(56)・野菜類(287)果実類 (102))」を全合計しておよそ1kg。3年かけて1トンだから、288トンを達成するには864年かかる。どうしよう。仕方ない。「汚泥肥料が撒かれ続け、なおかつ作物に集中的に取り込まれる」あたりを強引に仮定して、無理やりリスクを10倍に増やして、ようやく86年。
すべての数値で大甘レベルを使って、90年。本来ならここから「絶対リスクの定量」をすべきところだが、あまりにもリスクが低すぎて疲れてきた。
最後の力を振り絞って、これまた大甘仮定「ごく低線量でも線形でリスク上昇」で計算すると、全がんの罹患リスクは1.0097倍。治療必要人数206人。
ということで、「206人が基準値ギリギリの汚泥肥料を使った作物ばかり1日1kg90年間規則正しく食べ続けると、104人がんにかかる。食べないときは103人なので、+1人」となる。90年間がんにかかったり、他の要因で死んだりせずに、ひたすら食欲旺盛という無理な仮定。こんなところに金使うなら、予防接種や禁煙支援に使いましょう。
<追加ぼやき>
放射性汚泥の利用基準、10ベクレルが200ベクレルに引き上げられたとある。にしても、震災以前に「放射性汚泥の基準」があるとは、ずいぶん手際の良い話だ。
ならば、引用サイトを見てみよう。
引用元で、「10ベクレル→200ベクレル」の根拠として出ていたのがこちら。203-4ページの表。
http://whqlibdoc.who.int/publications/2004/9241546387_jpn.pdf
”WHOの基準!”とみんな大騒ぎだが、タイトルに「飲料水水質ガイドライン」。
incidence rateを「死亡リスク」と喝破する大准教授もいるから、慎重に原文を読み進める。
だが、どこからどう見ても文中にあるのは、
「放射性物質放出事故直後の1年間を除いた通常時の」「飲料水」の放射性核種のレベル。
それがいつの間にか、「事故直後」の「土壌中放射性核種」にすり替わってしまったようである。ブログの作者諸氏には、HTMLタグを使って太字や赤字や無駄な改行で煽り立てる暇があったら、原典の文章をせめて一度は読んで頂きたいのだが、無理な注文なのだろうか。
「200ベクレルは200ベクレルで一緒。単位も数値も一致しているから、他の些細な違いは気にするべきでない」と主張される方がいるかもしれぬ。
なるほど。
使わなくなった私のデジカメには、139g/トンの金が含まれている。
http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g70125b04j.pdf
もちろん私のデジカメは1トンもないが、些細な違いは気にしない。
gあたり3000円で換算すると、41万円/1トンになる。些細な違いを気にしない方には、私の古デジカメを進呈するので、ぜひ現金30万円 (少し安くしてみた)と交換して頂けないものか。