2011年06月22日 所長ブログより

実るほど頭を垂れる…

誰かの肩書きとその人の主張することの信憑性との間に、あまり相関がないことは、この数ヶ月でよく理解した。殊にそれが専門外となれば、なおさらである。

お抱え学者である私とて同じこと。「専門外」の放射線についてモノをいうときには、できるだけ己のフィールド(疫学や統計学や医療経済学)に軸足を置いて、なおかつある程度根拠のある数字を出して議論をすることを心がけていたつもり。

 ひょんなところで、サークルの先輩(直接の面識はあまりない)が主張されていた「リスク評価」の批判的吟味を依頼される。先輩ご自身は、全く私とは畑違い分野の「偉い」准教授先生(放射線ではない)。評価の中身は、定量的議論を一切抜きにして、土壌放射線の子供への被害を説き、なおかつ避難勧奨をするというもの。

 さすがに承服はしかねるから、定量データを添付して、反駁を試みた。
 私の名前は出さずに回ったそのメールに対して帰ってきた再反論、
 対岸からの記述、なおかつ一方的な立場で(当人の目に触れず)論じるのは申し訳ないけれど、統計と疫学のイロハすら理解していない内容。
 私が添付した「がん罹患率 (incidence rate) の論文」を一瞥して、「放射線のリスクは文献にあるような死亡率では測れない。健康被害のリスク(註:これこそまさに罹患率)を考えなければだめ」と切り捨てられてしまっては、「論文のタイトル読みました?」と丁重に問い返さざるを得ない。

 専門外のことを理解していないのは仕方ない。私だって、理学や工学の知識は素人以下。だがイロハも理解していない立場の方が、私の反論を伝えた方に「あなた統計分かってるの?」と諭しているのは、「わかりません」の著者としては言葉が出ない。残念ながら、件の准教授様よりも、私のゼミの学生の方が、よほどリスク衡量を理解している。

 雁屋先生とともに褒め殺しをしたいところだが、よそからかき回すのも申し訳ないので控える。願わくば、大先生が広くこの「新説」を開陳しないことを。

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